
5300年前の遺跡が語る起源と、希少な「アリバ種」
世界で生産されるカカオのうち、豊かな香りを持つ高品質なものは「ファインフレーバーカカオ」と呼ばれます。エクアドルは、そのファインカカオの世界最大の生産国として知られています。
エクアドル大使館主催で行われたカカオに関する勉強会で、私はエクアドルでしか育たない固有種「ナシオナル種(通称:アリバ種)」のことを知りました。
世界のカカオ生産量のわずか数%しか存在しない、非常に希少な品種です。一般的なカカオ特有の強い苦味や渋みが少なく、花や果実を思わせる華やかな香りが最大の特徴で、「フレーバーカカオの王様」とも呼ばれています。
実は近年、エクアドルの遺跡から約5300年前の最古のカカオの痕跡が発見され、「カカオの真の起源はエクアドルである」という歴史的な事実も明らかになりました。
はるか昔から神聖なものとして愛されてきたエクアドルのカカオ。そんなご縁で、私が初めてこのアリバ種に出会ったとき、一番心に残ったのはやはりその圧倒的な「香り」でした。

カカオそのものを味わう
カカオの香りをストレートに味わうため、私はまず、古代の人々が親しんだ伝統的な飲み方「ショコラトル(お湯に溶かしたカカオドリンク)」にして味わってみることにしました。
カップにお湯を注いだその瞬間です。まるでコーヒーを淹れるときのように、ふわっとジャスミンのような甘く上品な香りが一気に花開いたのです。プロの料理家として数々のカカオに触れてきた私にとっても、それは他のカカオとは全く違う、驚きと感動の体験でした。
ショコラトル(1杯分)
ローカカオパウダー 大さじ1〜1.5
お湯(80℃前後)150〜200ml
自然な甘味料(メープルシロップなど)小さじ1〜お好みで
自然塩 ひとつまみ
カップにカカオパウダーと塩を入れ、少量のお湯で練ってペースト状に。残りのお湯を少しずつ注いで混ぜ、甘みをととのえます。
このカカオを届けたい
エクアドルカカオのコミュニティのご縁で、いくつかのメーカーさんのカカオを使用させていただきました。
日本とエクアドルを繋ぐ架け橋となっているメーカーさんはまだ数少なく、中でも懸命にカカオの育成から行われている信頼できる作り手と出会うことができました。
手作りならではの温かみと、カカオに対する誠実な姿勢に深く共感し、「ぜひこの作り手さんのカカオを日本の皆様にお届けしたい」と心から思いました。

Fujiに似た異国の山と、一枚の絵との出会い
この特別なカカオをお届けするにあたり、パッケージの「顔」には当初、美しいカカオポッドの写真をイメージしていました。しかし、南米の巨匠(マエストロ)、ホセ・バスティダス氏が描いた一枚の絵に出会った時、「これだ!」と直感したのです。
エクアドル大使館の展示会に足を運んだ時のことです。そこにはエクアドルの美しい風景やハチドリを描いた色彩豊かな絵画が並んでいました。
その中で私の目を強く惹きつけたのが、日本の富士山によく似た美しいフォルムの山と、赤やブルーに染まる空、そしてそこに2羽のハチドリが描かれた作品でした。ピンク、グリーン、ブルー、レッド…その鮮やかで美しい色使いと、ハチドリたちの生き生きとした表情に、私はすっかり魅了されてしまったのです。遠く離れた異国の地なのに、どこか日本の原風景にも通じる温かさを感じました。
「この絵を連れて帰りたい!」
直感的にそう強く思いました。そして本当に不思議なご縁が重なり、なんとその原画は我が家にやってくることになったのです。

タイトル「種まき」と、森を育むハチドリ
不思議なご縁が重なって我が家にその原画を迎えることを決めた後。私はマエストロから、この作品のタイトルを伺いました。
タイトルは、「種まき」。
その言葉を聞いた瞬間、「ああ、やっぱりこれだったんだ」と深く腑に落ちるのを感じました。
「種まき」という言葉とハチドリの姿から、私は南米アンデス地方に伝わる『ハチドリのひとしずく』という有名な物語を思い出しました。
森が火事になったとき、他の動物たちが逃げ惑う中、小さなハチドリのクリキンディだけは、口に一滴ずつ水を含んでは火の上に落とし続けます。「そんなことをして何になるんだ」と笑われても、クリキンディはこう答えます。「私は、私にできることをしているだけ」と。
エクアドルは「ハチドリ大国」と呼ばれるほど、約130種類以上ものハチドリが生息する国です。直接受粉させるわけではありませんが、ハチドリたちはカカオを強い日差しから守る高い木々(シェードツリー)や森の植物たちの蜜を吸い、豊かな生態系をつなぐ役割を担っています。カカオが誕生したはるか昔から、ハチドリはこの森に住み、森を育て、結果としてあの素晴らしいアリバ種を育んできたのです。
自分にできる種まきを続けるハチドリの姿勢。それは、私たち&LAB TOKYOが目指す「すぐに世界を変えるような大きなことはできなくても、体に良いもの、環境に優しいものを一つずつ選び、伝えていく」という想いと完全に重なり合いました。

自然と人、記憶をつなぐ存在として
展示会で、マエストロのホセさんはご家族にまつわる、とても神秘的で温かいエピソードを教えてくれました。
それは、彼のお母様が最期の時を迎えようとしていた時のこと。
普段は入ってくるはずのない部屋の中に、突然一羽のハチドリが迷い込んできたそうです。そして、意識のないお母様の枕元へまっすぐ飛んでいき、くるくると回りながら、まるで何かを語りかけているように過ごし、また静かに外へ飛び立っていったのだと言います。
「何かを告げに来たのだろうか」。
マエストロがそう語るように、エクアドルにおいてハチドリはただの鳥ではなく、自然と人、そして目に見えない想いや記憶をつなぐ特別な存在なのだと深く感じました。
カカオが誕生したはるか昔から森を育ててきたハチドリ。
私に「自分にできる種まきを」と勇気をくれたハチドリ。
そして、大切な人との記憶をつないでくれるハチドリ。
私たちのカカオブランドのパッケージには、ホセ氏から特別に許可をいただき、ハチドリをモチーフにした絵画を採用させていただきました。ハチドリたちの物語が込められた私たちの小さな「種まき」が、このカカオを通じて、皆さんの暮らしに素晴らしい香りと温かい記憶をつないでいくことを願って。
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