インドネシア・バリ島、緑深いウブドの森の奥へ。 旅の途中で足を運んだのは、世界一高価で“幻”とも呼ばれるコーヒー「コピ・ルアク」を生み出す農園です。
コーヒー好きな私にとって、この農園を訪れることは今回の旅の大きな目的のひとつでした。そこには、発酵の専門家としても非常に興味深い「自然の神秘」が隠されていたのです。
コーヒー豆に「オス・メス」がある?
農園に到着し、案内された先で木の器に入った豆を指してこう説明されました。 「これはオスの豆。こっちはメスの豆です」
コーヒーに性別があるのかと驚きましたが、実はこれ、植物学的な性別ではありません。通常、コーヒーの実には種が2粒向かい合って入っていますが、ごくまれに片方だけが育ち、丸い1粒になることがあります。これが全体のわずか5%前後しか採れない希少な「ピーベリー(丸豆)」です。
丸い形状のため焙煎の火が均一に入りやすく、現地では力強さの象徴としてジャワ語の「ラナン(男性)」に由来し、「コピ・ラナン(オスのコーヒー)」と呼ばれて珍重されています。世界中どこでも採れる豆ですが、それに「オス・メス」と名付けるインドネシアの文化的なまなざしが、とても美しく感じられました。
動物のお腹を借りた「究極の発酵」
そして、この農園の主役が「コピ・ルアク」です。 野生のジャコウネコ(ルアク)が完熟した美味しいコーヒーの実だけを食べ、そのお腹を通り、未消化のままフンとして排出された種(豆)をきれいに洗浄し、焙煎したものです。
一見すると驚くような製法ですが、発酵の力を日々探求している私にとっては、非常に理にかなったプロセスに見えました。 通常、コーヒー豆は収穫後に水槽で発酵させ、種の周りの果肉を微生物に分解させます。つまり、コーヒーはもともと「発酵」を通る飲み物なのです。
コピ・ルアクは、その水槽で行う発酵を「ジャコウネコの体内」で行っていると言えます。動物の腸内酵素の働きによって豆のタンパク質が変化し、苦味の角が取れていく。それはまさに、麹菌が味噌や甘酒の角を取り、旨味へと変えていく「日本の発酵メカニズム」とそっくりなのです。
薪の火による手焙煎と、幻の飲み比べ
きれいに洗浄され乾燥した豆は、機械を使わず、素焼きの鍋と薪の火でじっくりと手煎りされます。その後、日本の餅つきと同じような木の臼と杵で搗(つ)かれ、金色のふるいにかけられて完成します。
今回は特別に、希少な「コピ・ルアクのオス豆(丸豆)」と「メス豆(平豆)」を飲み比べさせてもらいました。淹れる器具には、なんと見慣れた日本のハリオのサイフォンが使われており、遠い異国で現役で活躍する姿に思わず嬉しくなりました。
肝心の味わいは、苦味の角が一切なく、驚くほどまろやか。 個人的には、やはり火が均一に入った「オス豆」の方が、香りも味もふくよかで好みの味わいでした。
土地の記憶を味わう旅
同じインドネシア産でも、島や豆の種類、そして育った土地によって驚くほど味が変わります。キンタマニのアラビカ豆がみかんのような爽やかな酸味を持っていたのは、現地に柑橘系の木と一緒にコーヒーを植える伝統があるからだそうです。
動物のお腹を借りた発酵、そして土地の記憶がそのまま味になるロマン。 バリ島の自然が教えてくれた「食の奥深さ」に触れ、私の発酵への探求心はさらに強く刺激されました。
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今回のような「菌や酵素がもたらす味覚の変化」や「発酵のメカニズム」は、私たちの心と体を整える強力な味方になります。日本の伝統的な発酵(麹)や、細胞から美しくなるリビングフードの理論を学びたい方は、ぜひKNOWLEDGE(知識庫)や各種講座をご覧ください。
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